『サスペリア』のネタバレ感想 2019年初っ端からえらいもんを観てしまった
『サスペリア』2018年作を観ました。
ていうか観てから一週間が経ちました。映画館から出たあと、真冬だというのにだらだらと変な汗をかきながら電車に乗って帰った夜から一週間が経過した。マジで?
先に断りますが、オリジナル版は見てないです。なので見当違いなこといっててもへえって流してください。
2019年1月に初めて『サスペリア』に出会った人間のネタバレ感想。
あらすじ
簡単にいえば、オハイオから来た田舎娘のスージーがベルリンの舞踊団に入団できただけでなく、主役に抜擢されたシンデレラストーリー。しかし、その舞踊団は魔女が運営していて、若い女の子の暗黒舞踊を通して儀式を行っていたという。
そしてその背景には、テロと学生運動が勃発しまくってた時代。女性の社会的立場が低かった時代だからこそ、女性の身で独立している舞踏団の存在が際立つ。最高。
オリジナル版との違い
オリジナル版『サスペリア』との違い、結構あるらしいので気になっている。オリジナル版の監督がめちゃ怒ってるんでしょ。
オリジナル版は知らないけど、エロ・グロ描写が嫌な感じなんだけど、厭らしくないというか。性的に消費されていないところがよかった。
暗黒舞踏も超格好いいじゃん。そういうジャンルがあるって初めて知った。めちゃくちゃいい。モデルになった作品も見たけど、すごくよかった。かっこういい。怖くて素敵。ゾッとする。
最高なシーンたち
①最初の見せ場はやっぱりオルガ
入団したてのスージーの目の前で、寮母(というかマダム・ブラン)を魔女だと罵り出ていこうとするオルガ。出ていこうとしたはずなのに、鏡張りの部屋に閉じ込められてしまう。
一方スージーは、主役の踊りを踊ってみてと言われ、渾身のダンスをする。スージーが腕を伸ばせば、鏡張りの部屋でオルガの身体は吹き飛び、鏡にぶつかるたび顔や身体は歪み、関節は反対方向に曲がり……。身体から液体という液体が流れ、人間とは思えないような塊になってしまう。
そんなオルガに、緩やかな曲線を描いたフックを突き刺し、隠し部屋へ運ぶ寮母たち。やばいでしょ、すごいよ。こんなになってまで生きたくないよ。悪夢~~!!
②隠し部屋
隠し部屋ってなんであんなにワクワクするんだろ。見ちゃいけないのに見たくなる。見てはいけないものの魅力に抗えない。
③警官遊び
見てはいけないものといえば、警官さんを苛めるシーン。くすって笑えるけど、あれって散々女たちがやられてきたことだよね。男どもに。わたしはまだ男どもが女性にしてきたことに許せずにいる人間なので、いけないけどすっとしてしまった。
でも、本当はあれにすっとしちゃいけないんだよね。次にサスペリアがリメイクされることがあるかは知らないけど、もしあったら、その時代では男女間が平等だったらいいのにね。
そしてあのシーンこそ、あの館では女性が何より強い存在だと示していて、そういう意味では好き。性別に左右されない圧倒的力。
④スージーの夢
毎晩のように見るスージーの悪夢。サラがいうには、入団したての頃はみんな見るって言っていたけど、スージーにはスージーにしか見えないものがあったんだろうな。
「私は私が誰だかわかっている!」の叫びはそういうことでしょ。マザー・サスペリウム。
⑤ラストの儀式
すごかった。真っ赤だった。私は今何を見ているんだろうって。あんなにいい子だったサラ(ミア・ゴス)。狂った演技が最高で映画開始後の10分間のうちに世界に入り込ませてくれたパトリシア(クロエ・グレース・モレッツ)。めちゃくちゃ推しまくってた二人の腹が割かれ、内臓が取り出されていた。
わたしはそれをぼうっと見つめながら「やだ! もうかえる!! 二度と見るか!!」と叫び出したかった。けど見てしまった。だって最高なんだもん。
引力がすごい。とにかく画の引力がすごい。真っ赤な世界。儀式の前もすごかった。芋っぽい服しか着てなかったスージーが、とても魔女的な服装に身を包み始める。マザー・サスペリウム覚醒である。
コートを脱ぎ、手袋を捨て、儀式に現れるスージー。その正体は嘆きの母、ため息の魔女、マザー・サスペリウムだったのだ! 最高ですか。最高です。
マダム・ブランとの関係もよかった。二人は愛し合っていたのかな。わたしは愛をくみ取るのが下手なのでわからなかった。
マダム・ブランは死に様(死んでない)まで美しいのどうにかしてくださいます!?!? ありがとうございますほんとうに。ティルダ様は裏切らねえ。
そして一人ひとりに死という安らぎを与えていくマザー・サスペリウムの美しさよ。儚さよ。
どうしてあんなことになっちゃったのかな。やっぱりもう一回観たいな。二度と観るかよ! って思ったのにね。前言撤回ですよ。
スージーが胸を割くのは、出産を表しているという解釈を見かけて目から鱗だった。最後の儀式は出産シーン。マザー・サスペリウムの子に生まれ変わるシーンだったのだ。
死んでしまった子たちも、みんな生まれ変わってマザー・サスペリウムの子になれたのかな。
女のための映画
総じて、女による女のための映画だったのかなって。
戦時中、抑圧され、人権をはく奪された女たちの叫び、憎しみ。
女が何を言っても妄想だって、魔女だって言われる時代。
魔女が何をしたというのか。どうして彼女たちは魔女にならざるをえなかったのか。
この辺の話は詳しい人に任せるとして。
ティルダ様の驚異の三役もすごい。ずっと、ドクターの声が男性にしては高めで、可愛らしいなと思っていた。か細くて。社会的に弱者のようだった。違うんだけど。
でも、あのドクターを演じていたのがティルダ様だと知って納得した。やっぱりこれは女のための映画だったのだ。
ドクターも、戦時中から妻の亡霊に取り憑かれていた。ずっと、彼女中心の生活を送っていた。パトリシア、そしてサラのためにもがんばる。
彼女たちを想うドクターの気持ちに、厭らしさがないことが不思議だった。でも、そっか。そうだよなって。
すごく中性的な、とりあえず男性的ではない存在だったからこそ、儀式の場にいたのかもしれない。
『サスペリア』は、女性の強さや自立を描いていると私は思ったけれど、ドクターの愛の話でもあるんだよね。ロマンスなんだよ。
観ている最中は、こんな悪夢、一回観れば十分! って想っていたんだけれど、見終わってから考えると面白すぎて、考えることがありすぎて、もう一回観たい! そう思わされる映画でした。あとパンフレット最強だから見てください。
本日公開のルカ・グァダニーノ監督の最新作「サスペリア」のパンフレットが、映画同様に美し過ぎて、豪華過ぎて、身の毛がよだつ完成度👍🌈🦀🐟🐋 pic.twitter.com/YzZaQhkERv
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) January 25, 2019